頚髄症と頚椎後縦靭帯骨化症は手術を受けると頸髄損傷のリスクが減る

2022-09-18

頚椎の変性疾患である頚髄症は、進行する手足のしびれ、字が書きにくいなど手の動かしにくさ、思ったように足がでないといった歩きにくさが主な症状です。長年の頚椎の負担による骨や椎間板、人体の変形が原因です。頚椎の神経のそばの靭帯が骨のように固くなり神経を押してしまう後縦靭帯骨化症という病気を合併することがあります。

加齢とともに症状は少しずつ悪くなりますが、転んで頭を打つなどの軽微な外力が加わることで、一気に症状が進んで手足が動かなくなる脊髄損傷(いわゆる非骨傷性頚髄損傷)と呼ばれる状態になる患者さんをしばしばみます。脊髄損傷になると、とたんに日常生活が送れなくなり、寝たきりに近い状態になる危険な状態です。

頚髄症は、ある程度の症状があれば手術治療を推奨します。 症状の改善はもちろんのこと、将来の脊髄損傷を予防する効果が期待されるからです。しかしながら、脊髄損傷は頻度の低い合併症であり、脊髄損傷予防効果に関する研究はこれまでほとんどありませんでした。

今回ご紹介するのは、頚椎手術の脊髄損傷予防効果に関する、保険データベースを用いた大規模な後方視研究です。

Risk of spinal cord injury in patients with cervical spondylotic myelopathy and ossifcation of posterior longitudinal ligament: a national cohort study
li-Fu Chen, et al.
Neurosurg Focus 40 (6):E4, 2016

要約 

【目的】 
本研究は、頚椎症性脊髄症(CSM)患者おける脊髄損傷(SCI)のリスクを、後縦靭帯骨化症(OPLL)の合併有無に分けて推定することを目的としている。また、外科的治療と保存的治療を受けた患者のSCI発生率を比較した。

【方法】
15年間の後ろ向き研究。CSM患者におけるSCIの発生率を分析した。国民健康保険研究データベースから特定された、CSMと診断されて入院し、研究期間中にフォローアップされたすべての患者を対象とした。これらのCSM患者は、OPLLの有無と手術の有無により、次の4群に分類された:1)OPLLを伴わない手術治療のCSM、2)OPLLを伴わない保存治療のCSM、3)OPLLを伴う手術治療のCSM、および4)OPLLを伴う保存治療のCSM。次に、追跡期間中の各群におけるその後のSCIの発生率を比較した。Kaplan-MeierおよびCox回帰分析を実施し、SCIのリスクを群間で比較した。

【結果】
1999年1月1日から2013年12月31日の間に、89,003.78人年の追跡調査を受けたCSM患者17,258人が存在した。これらのCSM患者におけるSCIの全発生率は、1000人年当たり2.022人(100万人/年あたり200人くらい)であった。OPLLを伴うCSMを有し、保存的治療を受けた患者のSCI発生率は最も高く、1000人年当たり4.11人であった。OPLLを伴うCSMで外科的治療を受けた患者のSCI発生率は低く、1000人年当たり3.69人であった。OPLLを伴わないCSMで保存的治療を受けた患者のSCI発生率はさらに低く、1000人年当たり2.41人であった。OPLLを伴わないCSMを有し、外科的治療を受けた患者のSCI発生率は最も低く、1,000人年当たり1.31人であった。Cox回帰モデルにより、SCIは男性患者およびOPLL患者において有意に起こりやすいことが示された(HR 2.00および2.24、それぞれp<0.001およびp=0.007)。手術は約50%の患者のリスクを有意に低下させることができる(HR 0.52、p<0.001)。


【結語】
CSM患者のSCI発生率は、全体で年間約0.2%であった。男性、OPLLの併存、保存的管理は、その後のSCIと2倍の確率で関連する。したがって、OPLLを併発したCSMの男性患者には、 手術が推奨される。

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